初秋の月の光は、如来の光明と感じます。
能舞台、橋がかりにある三本の小松は参道の松並木を象徴しているといえましょう。この参道を月が照らした。
面がふわりと宙に浮くようにあらわれます。
「忘れて年をへしものを(随分年月が経ったものだ)」名月の下で、優雅に舞をまい、夜明けと共に「月の都に入りたもう」と姿はおぼろに消えていきます。
光明の月の光を見いるうち、あたり松や杉の葉末の輪郭に囲われるように、そこ、まさに山に招き入れられている思いに引き込まれていました。
幼い頃、長野の田舎で月明かりをたよりに歩いた道、お稽古を終えた深夜、月明かりが照らしてくれた道、厳かな心持ちを思い出します。今に動じていく自分を引き留めてくれた昨晩でした。
市川櫻香